生命保険のポテンシャル

 限界集落。住民の過半数が65歳以上で、冠婚葬祭さえも満足に行えないような集落のこと。これが今の日本で問題となっている。孤独死買い物難民、ヘルパー不足…。国による社会保障サービスの提供も持続が難しくなっている状況で、この問題をどう解決すればいいのか。

 

 社会福祉に充てられる税金の額を減らす方法…。皆さんも一度は考えたことがあると思うが、やはり高齢者には早く死んでもらった方がいい。イキイキと健康に過ごせる高齢者はまだしも、認知症で自分のことも分からなかったり、胃ろうに繋がれて意識も混濁していたり…。そういう人を、介護保険で生きながらえさせるのはどうなのだろうか。

 

 死生観。欧米、特に北欧と日本とでは、考え方が大きく違うらしい。日本は寿命が長いから社会保障費がかかるのだという意見もあるが、これは少し間違っている。確かに寿命が長い分、税金をひたすらに消費するだけの人も多いが、非健康生存期間(平均寿命マイナス健康寿命)は、北欧も日本も大して変わらないのだ。

 北欧には、寝たきりで、自分の世話もろくにできない、生きてるか死んでるか分からないような老人はいないらしい。北欧には尊厳死安楽死の制度が充実しており、それに対する国民の議論・思想も充実しているようだ。自分の正体がわからなくなった場合、あるいは延命治療を施さねばならなくなった場合、これらに備えて事前に、尊厳死安楽死についての同意をしておくようだ。

 日本でも安楽死等について、少なくとも国民レベルでの議論を進めるべきだ。自然に死を迎えるのが正しいと思い、それを実行しているように多くの人は感じているかもしれないが、延命治療を施している時点でそれは自然な死ではないと思う。もはや医学は、死さえも部分的に克服している。いつ死ぬか、それはしっかりと考えなければならない。少なくとも、死をタブー視して議論さえしないというのは間違っている。

 

 話を戻そう。生命保険会社はこれら限界集落の問題に対して、いかに存在感を発揮することができるか。

 生命保険会社の強みは、なんといっても「営業職員のネットワーク」である。全国津々浦々に営業職員がいて、それらが中央集権システムでつながっている。しかも営業職員は接客がメインだから、全国のお客と深く関わることができる。こんなリソースを持っているのは、警察や役所、あるいは宅急便くらいなものではないか。このリソースを活用しない理由はない。

 また話はずれるが、日本の生命保険会社はこれまであぐらをかいてきた。高度経済成長期以降、何もせずとも生命保険が売れてきた。それに満足していた。いま人口が減少局面に入り、生命保険の収入が減ったことを理由に、慌てて新しい商品などを販売しているけど、今や営業職員チャネルで保険を売るって時代遅れではないか。遅くとも2000年代に、人口減少を見込んで、健康増進型保険やらがん保険やら新しい商品を売ろうと考えていたら、営業職員チャネルを有効活用できたかもしれないが、今や無用の長物と化している。

 

 だから、今後の生命保険会社、特にメガ生保が考えねばならないのは、営業職員をいかに活かすかということだ。いかに営業職員で稼ぐかということだ。

 月に一回生保レディと共寝できる商品などがあれば、俺は喜んで買う。しかし、さすがにこれはできないであろう。

 

 ここからが今日の本題である。生命保険会社は、保険の枠を超えて、地域貢献事業に手を出すべきである。具体的には、限界集落のお年寄りを包括的に見守る事業を展開するべきである。

 限界集落の老人は、お金を持っていない訳ではないのだ。日本の家計金融資産の三分の二を高齢者が保有しているという現状を鑑みると、老人はそれなりにお金を持っているはずなのだ。彼らは有事に備え、それを預金なりタンス貯金なりで保管している。そのお金を、金融機関に預けてもらい、うまく運用して維持管理してあげる。病気になってお金が必要になったら払う、老人ホームに入れるように積立で管理してあげる、どこか旅行行きたくなったらドバっと払う。要は、健康保険と定期預金、投資信託とをミックスさせたような金融商品を販売するべきなのだ。これには、信託銀行やらとの協業も必要になろう。

 とにかく、高齢者福祉に関わるサービスは、フルパッケージで提供できるようにする。老人ホームを運営する、あるいは事業提携する。介護やヘルパー事業に投資して傘下に置く。高齢者を包括的に支える。ここに事業性も見込めるのではないか。

 

 日本人は金融リテラシーが低い。給料も低利の銀行預金に入れておくだけで、投資に回さない。沢山のお金を一気に使って一文無しみたいな生活をすることがかっこいいと思っている。人生、少なくともお金くらい計画的に使えるようにしなければならない。突然の出費とかは余計なコストがかかる。若いうちから、それなりに未来を見据えてお金の管理をすること。それが、その人にとっても、あるいは税制度、経済にとっても有用である。

 

 以上より、私が提案したいことは、第一に、日本人に投資に対して積極的になってもらうこと。第二に、金融機関が日本人ひとりひとりのお金のうまい使い方をアドバイスすること。第三に、将来を見据えた金融商品を作り販売することで、いくら長生きしても税金に頼ることなく生きていけるような仕組みを作ること。この三つを、生命保険会社をはじめ日本の金融機関には力をいれて取り組んで頂きたいと思う。

 お金を計画的に使えるようになれば、出産や結婚、高額商品の買い物なども、そこまでの心理的負担なく行えるのではないか。生命保険会社に関して言えば、営業職員をもっと勉強させて、人生を包括的に支えられる商品を提案してもらうようにしよう。まだまだ日本は効率化できる。